債務整理コラム

債務整理のケース「余計なことは……」(3)

「お騒がせしてすみません。本当はいい父なんです……」
丁寧に頭を下げた娘さんを励ますように私は笑顔を浮かべました。
私としても娘さんの述べたいことはよく分かっております。お金は人間を変えるものなのです。
「さて、順序が逆になりましたが」と債務整理に関して私が述べたその瞬間。
娘さんの顔がさっと真顔に戻りました。
「結構です。余計なことはしないでください」
突然の言葉に私としてはぽかんと口を開けたまま、返事をすることもできませんでした。
お構いなく娘さんは言葉を続けます。 「私は『債務整理をしてください』なんて一言も言っていません。『借金取りが来て大変なので助けてください』と申し上げただけです」
「いや、しかしそれは一般的には……」
「いいんです。またなんとかしますから」
私は慌てて首を横に振りました。はっきり申し上げて「なんとかなる」事態では到底ありません。今日をしのいでもまた明日サラ金業者は取立てに来るのです。
しかし私が言葉を尽くしても娘さんはまったく取り付くしまもありません。
「そもそも借金の総額だの父の会社について話を聞かせろだなんて、失礼ですよ。何か含むところでもあるんですか!?」
「いや、含むもなにも……」
相手のペースに呑まれかけたその瞬間、私ははっと我に返り、厳しく切り返しました。「このままでは何もかも失いますよ!」
娘さんは驚いた顔で黙りこみました。

私としてもようやく彼女の真意が読めました。この娘さんは都合のいいように私を利用するつもりだったのかもしれませんが、それは誰の得にもけしてならないものです。

私は噛んで含めるように今Kさん親子が置かれている状況について述べました。今のままでは娘さんも給与の一部を抑えられること。闇金であれば勤め先への連絡などなんとも思っていないこと。また負債総額が大きいのであれば、生涯をかけて返済しなければならない旨などをじっくりとお話しました。私としては直接触れませんでしたが、まだ年の若い女性である彼女としては色々と思いつくところがあったようでした。

結果、ようやく向こうは事態の重大さに気づき、娘さんは目から鱗が落ちるような表情で私の話に耳を傾けてくれました。私からすると、彼女はけして悪人ではありません。しかし借金をすると大抵の人間はこのように視野狭窄に陥ります。自分でも知らず知らずのうちにこのような状況におちいっているのでたちが悪いのです。

それでも私の必死の説得の甲斐もあってか、娘さんは話を聞いてくださいました。しかし娘さんいわく、Kさんの方は頑として聞く耳を持たないだろうとも同時に告げられたのです。難しいところでした。このため結局のところ、娘さんがKさんの説得をして会社を清算する方向で話はまとまり、私は一度引き上げるかたちといたしました。

そこから先の過程は省略いたします。
現在、Kさんと娘さんの住んでいたアパートは残っておらず、小さな百円パーキングになっています。Kさんが会社を清算すると同時に自宅兼アパートであった持ち家を売却した結果です。娘さん自身の連帯保証人としての額は事前に予想していたよりも大分少なかったため、任意整理によって月々の給与のうちから五年以内に返済することで決着がつきました。五年間であれば彼女の将来にとっても大きな瑕疵とはならずに済むため、私としても胸をなで下ろすところです。

繰り返しますが多重債務に陥ったり、借金の返済が苦しいなと思った際には余計な見栄を張ったりせずに「素直」でなければなりません。債務整理をご依頼される際にもそれは同様。人には言えない内容でも、素直に今の状況をお伝えください。秘密厳守こそが我々の仕事なのです。

また「素直」であると言うことは思ったままを述べるのではなく、人の話に耳を傾けることでもあります。この本意は言葉尻ではなく、相手の真意を汲み取ることにあるのです。
借金を負って苦しいとき、お客さまの耳には痛いかもしれませんが、例えこちらの利にならずとも、無料にて相談を受け付けてくれる善意の事業所はきちんと存在するのです。

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