債務整理コラム

サンダル御殿と多重債務 (2)〜アナタの価値は他人が決める〜

前回のコラムでは借金を負った人のための裁定取引とリスクについて述べました。ところで映画のCMを見ていると「ちょっと見てみたいな」と言うものがありますよね。けれどよっぽどでない限りは「面白いかどうかもわからないし、少し待ってDVDでレンタルすればいいか」と言うように落ち着いてしまうこともあると思います。これなども一種の裁定取引ですが、これは映画館へ行く時間と費用+映画代がもったいないと言う意識が働いたからなのです。また次に「少し待てばレンタルビデオ屋で安く借りられる」と言う意識も働いています。これは未来の価値を考えたため。人間は本能的に未来を考える動物です。「雨が降りそうだから傘を持っていく」と言うようにほとんど反射的に未来に対してのリスクを考えます。

確かに準備をしておくと言うことは素晴らしい行為です。しかしながら実はこれはお金の世界においてはあまり褒められたものではありません。

何百億と言う金額で証券の売買を繰り返して巨額の利益を上げている会社をヘッジファンドと呼びますが、彼らは人間の心理について「人間は直感的に未来に合わせようとする」と言っています。前回のコラムのサンダル御殿の例で述べると、サンダルを売りに行く子どもが実際にサンダルを売れる確率を80%・山道で落としてしまう確率を15%・犬がくわえてもっていってしまう確率を5%とします。これにお金を賭けるのであれば、多くの人がサンダルを売れる方に、ときに大儲けをしたい人が山道や犬に賭けることでしょう。しかしヘッジファンドはそのようなことはしません。子どもがサンダルを売れそうならばその瞬間にサンダルが売れる方へ、犬がくわえたのであればその瞬間に犬がくわえてゆく方へとお金を入れてゆきます。つまり「未来などは信用できない。今この瞬間の事実にのみ合わせている」と言うことです。

さて、債務整理に話を戻しましょう。多重債務で破産直前であるならばともかく、多くの人は最初にお金を借りた際に「この金額ならばこれくらいの期間で返す」と言う予測を立てていたのではないでしょうか。ところがサラ金業者の方は「今この瞬間に借金を返せ」と言ってきます。つまり、お客様の未来をまったく信用していないわけです。債務者側としては「返すと言っているのだからもう少しは信用してくれてもいいだろうに」とも思いますが、聞く耳を持ってはくれないでしょう。

借金をするとこの落差に驚かれる方も大勢いらっしゃいます。しかしこれは客観的に見れば当たり前のこと。人は未来を含めて自分の都合の良いように自分の価値を思い描きます。過去の栄光や成功、都合の良い未来を含めて今の自分の価値を創りだしているのです。ところが人間と言うものは実際のところ、人間関係の中でしかその価値を作り出すことはできず、そして借金取りである債権者にとってのアナタの価値は今この瞬間だけ。「借金をした上にその返済の約束すら破る人間」であるとしかみなされていないのです。

もしお客様が多重債務者であるならば、自分の価値と言うものをもう一度よく考えてみましょう。 伊藤忠商事と言う会社がありますが、その会長である丹波氏はかつて朝日新聞の紙上にて以下のような趣旨の事を述べられています。

ある日課長に

「君は一つ心違いをしている。人間は自分で自分を評価するものではない。他人が君を評価するのだ。君自身がいくら自分はよくやっていると自負しても、他人が、あいつはだめだといえばそれが君の評価だ。逆に自分ではだめだと思っても、他人がよくやっているといえば、それが君の評価になる」

といわれ、とても大きな衝撃を受けました。

蓋(けだ)し至言です。 あなたの価値とは「他人の目に映る今のあなたの価値」なのです。かつて社長であったとしても、かつて株式で大儲けをしたとしても、今、借金を返済できないのであれば、それがあなたの現在の価値。そして、それが直感的に分かる人と言うものはおしなべて謙虚な人です。

未来は何が起こるかわかりません。大病にかかったり、大変な不景気に苛まれて会社を辞めざるをえなくなったりして借金を負われた方も大勢いらっしゃいます。しかしながらその返済が行き詰まったとき、きちんと「債務整理をしよう」と言う方はほんの一握り。謙虚さを持ち合わせ、今の自分の立場を客観的に見られている人だけです。返済できない借金を背負いつつも「俺はITバブルで大儲けしたすごい才能の持ち主なんだ」と言うのであれば、それがその人が思っている自分の価値ですから、債務整理をしようなどとは思わず、まだ返済できる方法があると思い続けることでしょう。だからこそ、最後の最後に破滅してしまうことになるのです。

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