債務整理コラム
債務整理は捨てること?
以前、トイレ掃除をしても借金は減らないと述べました。借金をしている人にとっては、通俗的な運命判断に踊らされて金運が上がることを期待している間にも借金の金利はつくわけです。だったらそんなことをしている間にアルバイトでもするか、債務整理を行うかした方がよっぽどましと言う話です。
とは言え、トイレだって汚いよりは綺麗な方がいいに決まっています。時間が空いたら掃除しておく方が良いはずです。実際、自己破産をする人の家と言うものはごみごみしていることが多いです。元々はすっきりしていただろう邸宅ですら、借金がかさんでくるとなぜか埃が溜まって陰鬱な雰囲気になり、物が散乱し始めます。とくに何に使うのかもよくわからないようながらくたが極端に多い家や、自宅がいわゆるゴミ屋敷のような体をなし始める人は債務整理すら受け付ける気概が少ないような印象があります。
しかし、どうして借金を重ねている人の家はがらくたが多くなりやすいのでしょうか。
「行動経済学(友野典男 著:光文社新書)」と言う本に面白い実験データがあります。
『ローワンスタインとアドラーは、被験者たちにマグカップを見せ、被験者がそれを所有できることになったと想定してもらい、それを持っていてもよいし売ってもよいが、売る場合にはいくらなら手放してもよいかを尋ねた。売ってもよいという回答の金額の平均値は3.73ドルであった。 次に、実際にマグカップを被験者に与えて、売ってもよい価格を尋ねた。平均額は4.89ドルに跳ね上がった。 ほんの数分前に予測した金額よりはるかに上昇したのである。』
実験そのもののテーマは、人間は将来的な評価の予測ができないと言うことですが、自分の物になった途端にその価値が跳ね上がると言うのは一考に価することかと存じます。この実験の場合、マグカップを所有することの価値は1.16ドルとなります。
ひるがえってみて、家ががらくたで散乱している人の場合はどうでしょう。がらくたと言うものは価値がないからがらくたです。しかし、当人にとっては所有している分だけ、価値が生じているわけです。もちろん、他人から見たらその価値はゼロどころか、処分費用がかかるわけですからマイナスであるにも関わらず、当人にとっては「たくさんの物を所有している=お金持ち」と言うような漠然とした意識を持っているのかもしれません。そう思推してみると、がらくたの多い人が「自分は金持ちなのに債務整理なんて」と債務整理を嫌がると言うのも頷ける話です。
同様にがらくたに限らず、人間には多かれ少なかれ価値観にフィルタがかかっています。例えば学生時代に腕力が強かった結果、成功体験をたくさん得た人は、社会に出てもなお、自分の腕力を過信し、横暴な態度で世間に臨むことがあります。当人にとって腕力は高い価値のある自分と言うものの礎となっているのでしょう。しかし実際のところ、スポーツ選手でもない限り、それらは一銭のお金にもなりません。結局はいわゆる「ちんぴら」像と言うものにつながってくることは想像に難くないはずです。 また以前、ある人に依頼されて債務者の方のところにお話をお伺いにいったとき、債務者から「私は借金など一銭も返さない。返す必要がない」と頑なに言い張った人がいました。その理由を尋ねると「私は元議員で偉いから」と言うことでした。 このように価値観のズレが生じる事は往々にしてあるのです。
現在、断捨離と言うものが流行しています。不要なものをどんどん捨ててゆくと物に対する執着心を失い、気持ちがとても軽くなると言うものです。これはとても素晴らしいものであると言えます。先のゴミ屋敷の例にあてはめても、生活における不要ながらくたを失ってゆくことで、自分の価値がどんどん社会的に「当たり前」に近づくためです。そして概ねにおいて日本人は「個性」を重視するよりも、当たり前の生活である方がどちらかと言えば幸福を感じるようなのです。
世界中でビジネスを成功に導いている戦略系のコンサルティングファームの人々は成功の条件に対して皆口をそろえて「余計なことをしないこと。無駄なものを捨ててゆくこと」と述べています。ですので、今借金があって困っていると言う人は、まずは不要なものをどんどん捨ててみましょう。物に限らず、金髪にサングラスにピアスなどと言う人は、当たり前の状態に戻ってみましょう。悪い友達を思い切って捨てましょう。日がな一日週刊誌を読んだり、インターネットで無駄な情報を仕入れている人は、そこから離れていってみましょう。
もしとてもシンプルで必要最小限の生活になれたあかつきには、必ずや、ふっと「後は債務整理をするだけだな」と思えるはずです。なぜなら、シンプルな生活において債務整理を行ったところで何一つとしてデメリットは生じないためです。そうして、債務整理を行ない、借金を捨て終わった後は、あなたは成功に向けて次々とお金が入ってくるだけとなることでしょう。