債務整理コラム
債務整理後の心構え
ときどき訪れる債務整理の相談に「親や子どもにお金を使い込まれた」と言う話があります。これは難しい問題です。仮に借金が返せなくて自己破産をしたとしても、家族の心が改まらない限り、生活の再建はままなりません。他人からすれば、そのような家族は突き放してしまうべきだとすぐに割り切ることができるのでしょうが、いざ我が事となるとなかなかそうはいかないのが実情なのです。
では、自分の遊興費などで借金を増やしてしまった人はどうでしょう。債務整理を行った上で気持ちをしっかりと改めれば自ずと人生は再建できます。傍目に見れば、それに失敗すると言うのは自己責任以外の何物でもありませんが、実際のところ、他人の心を改めるのと同様、自分の心を操作すると言うことも、とても難しいことなのです。
表立って言われることは少ないものの、ライフプランニングの世界では「三大金食い虫」と言われるものが存在します。これは「家・車・異性関係」の3つを示しています。例えば住居。自宅の購入であれば、三十年にもわたるローンの支払を迫られたり、賃貸であれば、間借りしている限り、永遠に家賃を支払わねばなりません。車であれば購入費はもとより、毎年かなりの維持費がかかってきてしまいます。異性関係については言わずもがな。恋愛気分に浸りたいがため、適切な金額を超えて水商売の相手に金品を貢ぎ続け、すかんぴんになった挙句に捨てられたなどと言う話は枚挙にいとまがありません。
無論、住居も自動車も恋愛も人生に必要なもの。誰だって高度成長期のまんが家が自嘲混じりに描いていた「何とか荘」のような三畳一間のアパートよりは、月50万円のタワーマンションに住みたいと願うはずです。自動車にしても恋愛にしても根本的な理屈は同じ事でしょう。問題はその程度です。慎ましい生活を送ろうと考えていたはずなのに、ふと気がついたら分不相応な生活に陥っていたと言うことは珍しくありません。欲望のコントロールはデジタルに割り切れるものではないのです。
当所では借金の債務整理を行なっていますが、ただ債務者の借金がなくなればそれでいいと思っているわけではありません。債務者の借金がなくなることで、まずは当たり前の日常に戻ってもらい、そこで準備を整えたのであれば、今度は経済的・精神的に潤った充実した生活へと邁進していただきたいと思っています。そして、債務整理後に成功を掴み取るためには以前とは異なった心構えが必要となってきます。
さて、ビジネス界隈ではこの数年の間に「クレド」と言う言葉が一躍有名になりました。クレドとは、端的に言えば信条を明確にしたもののことです。クレドを世界的に有名にしたのはリッツカールトンと言うホテルですが、リッツカートルトンはこのクレドによって、世界一とも言われる徹底したサービスをお客様に提供することに成功したと言われています。
リッツカールトンのクレドとは以下の文章です。
『リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。
私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだそして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。
リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。』
クレドは単なる理念ではなく、自分らしさと社会からの要望を上手に結びつけたものです。そして、リッツカールトンは見栄で高級な物を見せびらかすどころか、わずか数行のこの文章をしっかりと遵守することで、世界でも最高級のホテルの一つと目されています。
翻ってみて家族にお金を使い込まれたと言う人はどうでしょう。自分らしさと言うものがそこに存在しているでしょうか。仮に破産をしても、家族が「どうせあいつの金で、あいつが働いて何とかしてくれるから」と言った気持ちでいる限り、お金の面でまた家族に振り回されてしまうのではないでしょうか。逆に見栄ばかり張る人はどうでしょう。これは「自分らしさ」を主張した結果、お金と引き換えにサービスをして欲しいと言う社会からの要求に答えられていないのではないでしょうか。
家族の言いなりになって借金をしてしまう人。周りに良い顔をしたくて借金を重ねてしまう人。この両者の共通点は「自分を大切にしていない」ことです。
世界経済を動かし、その頂点に立ち続けている富裕層の一つにロスチャイルドと言う財閥があります。そのロスチャイルド家当主の夫人であるナディーヌ・ロスチャイルドは、人にマナーを教えるにあたり、まず最初に「自分へのマナー」を教えます。そしてそのマナーとは「自分自身に敬意を払い、大切にすべき」であるとの趣旨を述べています。
借金とは社会や環境に振り回されることと同義です。債務整理によって、せっかくそこから自分を取り戻したのですから、今度は周囲にも欲望にも振り回されることなく、本当の成功を掴み取るため、自分自身を大切にする心構えが何よりも求められるのです。