債務整理コラム
返済をしないことと、債務整理を行うことは違う
Wさんは東京と埼玉の境目あたりの繁華街ではちょっとした有名人です。有名人とは言え、その内容はけして褒められたものではありません。プチ食い逃げの常習犯なのです。なぜ食い逃げではなく、プチ食い逃げなのか。それはWさんが確信犯ではないためです。繁華街に出かけてはちょっと一杯二杯お酒を飲み進めているうちにお金が足りなくなってしまう。足りない場合にはツケにしてもらう。けれども、あまりにもツケがたまりすぎて出入り禁止になったお店も一件二件ではありません。本来ならばこんな行為を繰り返していてはやがては逮捕されてしまいます。しかし、Wさんがうろついている界隈は顔見知りの店が多く、Wさん自身もあるときにはあるだけ払ってはいるのですから、お店の亭主としても無碍に警察沙汰にするのは気の毒と言う気持ちを持ってしまいます。その結果、Wさんは出入り禁止やお説教と言った程度で許してもらう。そんなプチ食い逃げ行為をWさんは数年もの間繰り返していました。
もちろんそんな生活ですから、Wさんの懐が温かいわけがありません。ゆく先々で数百円・数千円と言った少額の借金を繰り返し、仮に催促されては「ないものはない」の一点張りで、のらりくらりと逃げまわる。金額そのものがそもそも少額ですから、誰もが訴訟を起こすのもめんどくさいと言った気持ちに陥ってしまいます。要するにお金の面でもプチ食い逃げを繰り返していたのです。このような有様で、Wさんは漠然とその日を生きることを許されると言った生活を続けていました。
しかし、小さな借金であれ、積もり積もれば山となります。十メートル歩くたび、百メートル歩くたびに借金の催促を受けるようになり、さすがにWさんも気が咎めてきたようでした。パートで働いている奥さんを連帯保証人に、Wさんは消費者金融から数万円ほどお金を借りたのです。もちろん返せるあてなどなに一つありません。この結果、借金は膨れに膨れてゆきます。その過程において誰かが知恵を与えたのでしょう。当所ではないものの、Wさんは自己破産を申し立てました。またそれと同時に生活保護を申請することになりました。しかしながらWさんは十分に健康的な人間です。生活保護を申請するためには何がしかの理由を作らねばなりません。このためWさんは不眠を理由に病院に足しげく通って精神的な病と言う診断書を取り付け、ついに生活保護を勝ち取ることになりました。もちろん、生活保護は受けつつも、今まで通り、プチ食い逃げは繰り返すと言う毎日です。 ところが、不眠対策と言い張って処方された睡眠薬を飲んで寝タバコをしていたところ、今まで住まわせてもらっていた奥さんの実家は全焼。住む場所もなくなり、またその噂が繁華街を駆け巡って、ついにWさんはすべての店から出入り禁止を通告されてしまいました。かくなる上はホームレスになり、そこで日雇いの仕事を見つけることが最後に残った再起を図るための手段です。しかし、生活保護と言う現状があるために、どうしても働く気が起きないのでしょう。次にお金が入るまでの間、どうにかして生き延びようと考えてほうぼうにその日の宿をすがってみたものの、誰しもから冷たく突き放され、とうとうWさんは行方知れずになってしまいました。
伝聞も多分に含まれていますが、上記は嘘のような本当の話です。では、Wさんは一体何が悪くてこのような悲劇的な最後を迎えたのでしょう。全部と言えば全部ですが、根本的な一点を述べれば、それは人生を立て直そうと言う意識が薄かったためです。このコラムで幾度も幾度も口を酸っぱくして申し上げていますが、債務整理はお客様の人生を再建するためのものなのです。遠く対岸にそびえる成功への架け橋として有効に利用していただくために債務整理は存在しており、ただ目先の借金を帳消しにして、数年後に同じような生活に逆戻りするためのものではないのです。とくにWさんの場合、生活保護を受けてからこれまでの悪循環に拍車が掛かった感があります。これはおそらく生活保護と言う手段を受けることにより、些少なりともWさんに残っていた「労働の対価としてお金をもらう」と言う意識がなくなってしまったことも原因の一つであると考えられます。
例えば昭和の初期には飢饉により、東北の人々は借金のかたに泣く泣く娘を身売りさせねばなりませんでした。戦後には高い金利により、多くの人が首をつったり、場合によっては闇で臓器を抜き取られることもありました。現在ではこのような状況は少なくなったとは言えど、借金を理由に悲劇的な結末をたどる人はまだまだいます。
だめな生活に拍車を掛けるくらいならば、債務整理は行うべきではありません。当所はお客様の人生を立ち直らせたいと言う強い思いを持っています。だから、そういう人にこそぜひ当所を訪れて欲しいと願っています。なぜなら人の生命を救い、失われた希望を再度与えるものが債務整理だからです。