債務整理コラム
コワモテばかりが怖いわけでは
Uさんは多重債務を重ねた結果、自己破産に至った方です。この方は勤め先を辞めて以来、しばらくの間、四畳半のアパートに住んでいました。しかし前の職場でのいざこざが心に重くのしかかってきた結果、なかなか次の仕事を探そうと言う気持ちが出てきません。「何とかしなければ」と言う意識を抱えたまま、一ヶ月、また一ヶ月と月日だけが経ってしまい、ついには生活費の捻出に困窮する事態となってしまいました。そうして消費者金融に手を出してしまったのです。その後はもちろん坂道を転げ落ちるように金利が増えてゆきます。借金の返済とさらなる生活費のために、Uさんは次は二社目からお金を借り、またその返済のために今度は三社目からお金を借り、としているうちに、ついには消費者金融からも融資を断られるところにまで至ってしまいました。
消費者金融の人も大手であれば彼らはサラリーマンです。しかしサラリーマンであるからと言って、のらりくらりと逃げまわっていればそのうち諦めてくれるかと思ったらそれは浅慮と言うもの。彼らの仕事は「借金を回収すること」です。それができなければ給料をもらうことができません。また、彼らの気持ちの根本には「返せる計画があったからお金を貸したのだ。だったらお金を返せないわけがない」と言うものがあります。もちろん彼らとしても、例えば債務者が重病にかかったり、大きな災害に遭ったのであれば「ああ、これは無理だ」と回収を諦めるケースもあるでしょう。しかし、そうでない限り、彼らは「債務者が諦めるまで時間をかければ、必ずお金を取り返せる」と言う意識があるようなのです。つまるところこれは債務者と債権者のどちらが根負けするかの勝負に近いものがあるのでしょう。
ともあれ、Uさんに話を戻しますと、彼は増えてゆく債務から目を背けてしまい、「もう借金なんて知るものか」と督促状に手も触れないと言う状況にまで陥ってしまいました。そうして普段はだらだらと過ごし、ときに取り立てが来たのであれば、そのときは債権者が帰るまでアパートの部屋の中で息を殺して居留守を決め込むと言う日々となってしまったのです。
しかし、取り立てに慣れた債権者であれば、居留守などはすぐに気づきます。ご多分に漏れず、Uさんの部屋の前には連日コワモテの債権者が待ち伏せをすると言う状況になってしまいました。消費者金融の債務者の中には「返す気などさらさらない」と言う人は珍しくありません。そのような債務者を捕まえるのは至難の業である上、よしんば出会えとしても話ができる時間も限られているため、彼らとしてはなるべく「債務者に舐められない」ようにコワモテの格好をし、恫喝的な口調でスピーディに債権の回収に入るのです。しかし、そのような人々であれば、Uさんとしてはますます顔を合わせたくないと言うもの。このため、Uさんは数週間の間、取り立て屋がやってきては居留守を決め込むと言う悪循環に陥ってしまいました。
ところがある日、トントンと扉がノックされました。 「こんにちは。○○ファイナンスでございます」 扉越しに丁寧な口調で言われたものの、当然Uさんはそれを放置します。ノックは数分続きましたが、いずれも静かなもので、けして威圧的な調子ではありませんでした。しばらくして音は止み、Uさんはカーテンの隙間をほんの少しだけ開けて、外の様子を眺めていました。
Uさんのアパートから出てきたのは、小柄で柔和な表情をした、背丈の低い壮年の男性でした。紺色のスーツを着てとても気弱そうなその雰囲気にUさんは内心でほっとしました。この人ならば、当分の間、取り立てに怯える必要もなさそうだからです。
ところが、そう考えて布団にごろりと横になったその途端、鍵をかけたはずの扉が軋んだ音を立ててゆっくりと開いたのです。寝転がった格好のまま、目を丸くしてその様子を見ていたUさん。しかし、口を開けた戸口の先にはなんと、眦(まなじり)を吊り上げた大家さんの姿があったのでした。
「ちょっとUさん。あんた、いつまで家賃貯めこんでるの?」
あっけに取られるUさんに向かい、大家さんは激しい口ぶりで述べました。そうしてその背後から、柔和な表情の小柄な男性がちょこんと顔を出したのです。
「こんにちは。○○ファイナンスでございます」
男性はにやりと笑ってそう述べました。
「この人ね」と大家さん。「通りがかりざまに、アパートのゴミ出しを手伝ってくれたんだけど、いい人だと思って話聞いたら、なんと、あんたの借金でここに来たそうじゃない。うちの滞納の件も一緒に話してくれるらしいから、ちゃんと話聞きなさいよね」
こうしてUさんはお手上げの状態になってしまったそうなのです。
取り立て屋もあの手この手で動いてきます。必ずしもコワモテばかりが怖いわけではないと言うお話です。