債務整理コラム

カラーバスに見る借金の誘惑

カラーバスと言うのはあまり耳慣れない心理学用語です。しかしその内容については、みなさんも一度は聞いたことのあるもののはず。例えば、トヨタの自動車「プリウス」が欲しいと思っている人は、街を散歩するとプリウスばかりが目に留まります。また「赤い色を探してみよう」と意識してみると、周囲を見回すだけで、赤い色ばかりがどんどん目に入ってくるのです。カラーバスとはあるものに意識を傾けると、それだけが意識の中にどんどんと溜まってゆく心理現象を指すものなのです。

これはある意味でユニークな心理現象だと言えますが、例えばアルコール依存症の人がこのカラーバスに意識が向かうと大変でしょう。街を歩くたび、コンビニなどに入るたびにきっとお酒が目に留まるはず。それは禁酒をしている人たちからすると、おそらくとても苦痛なことに違いありません。

作家の中島らもさんはかつて、アルコール依存症の主人公を描いた「今夜すべてのバーで」と言う小説を書きました。直木賞候補となったこの作品の中で、主人公は、一度はアルコール依存症から脱却しかけますが、あるときふとそば屋に立ち寄り、禁を犯してお酒を飲んでしまうくだりがあります。そこでの話は、主人公はそばを頼んだついでに「病院ならば止めてくれるから」と、ふとお酒を頼む。もちろん病院施設とは違って、そば屋では誰も止めてくれないので、当たり前のようにお酒が運ばれてきます。そこで「治療を受けて、何か変わったところがあるのか」と少しだけ口をつけてみたところ、いつもと何も変わらないお酒だった。お酒が届いてから飲んでしまうまで、あまりにも当たり前すぎた。そして気づいたときには再び泥酔状態に陥っていたと言うような内容です。

アルコール依存症の人は、お酒が意識の中にあるために、段階を踏んでごくごくあたり前のように泥酔状態へと逆戻りしてしまう。これは恐ろしいことです。

しかし借金の債務整理と比較すると、この恐怖は他人事だとは言えません。例えば借金の返済をしている最中にふと街角の消費者金融の看板が目に留まったらどうでしょう。「こんな苦しい思いをしなくても、もう一社からお金を借りれば楽になれるじゃないか」と言う気持ちに陥るのではないでしょうか。

それでもがんばって返済をしている最中ならばまだその誘惑に打ち勝つことはできるはず。それよりも恐ろしいのは、債務整理を終えた直後の段階です。消費者金融は裏で顧客情報を回し合っており、大手から中小零細の消費者金融にもその名簿は回ってきます。では、その零細消費者金融から情報が回るのはどこか。闇金です。

このため、人によっては、債務整理を終えた後には闇金からのダイレクトメールがたくさん届いてくることになります。ことに債務整理を終えた後は手持ちのお金だって山ほどあるわけではなし、つい心細くなることもあるでしょう。そんなときにふとこんなダイレクトメールが届いたとしたらどうでしょう。

「今月のみ×%の低金利! お見逃しなく!」

「他社からお断りされた方でもだいじょうぶ!」

このような見出しが並んでいると、借金に慣れた方ならば、ついくらっと来てしまうかもしれません。しかしこれは地獄への入り口。これは例えて言えば、せっかく病気が治ったのに、再び新しい病気を呼び込むようなものなのです。病み上がりの状態で前よりも悪い病気にかかるのですから、次は命の危険に晒されてしまうことでしょう。

借金の整理と言うものは、ある意味で「もうこれからは借金をしない」と言う決意表明でもあるのです。これは禁煙や禁酒に近いものがあるはず。タバコを吸ったり、お酒を飲んだりしない人ならば何でもないことでも、その状況に慣れている当人からすれば、そこから精神的に脱却するのは、とても勇気のいることだと言えます。しかし、借金をしないと言う決意を一日二日、一週間二週間、一ヶ月二ヶ月と積み重ねてゆけば、いつしか借金をすると言う意識すら薄れてくるはず。そうなれば後はもう勝ったも同然。

しかしそれを逆に言えば、借金中や借金の整理後には、前よりも消費者金融の看板やチラシなどが目に飛び込んでくる可能性が高く、この誘惑に打ち勝つことが債務整理後の第一の試練だとも言えるはずです。

風邪が快癒してゆくように、「当たり前のように、ついつい」借金さえしなければ、その誘惑も日毎に薄れてゆくようになります。まずは借金のない一日を乗り切る。その勇気でがんばって人生を再建してゆきましょう。

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