債務整理コラム
お化けとお祓い
連帯保証人の方から債務整理のご相談をいただくことがあります。この理由は様々ですが、ともあれ、連帯保証人の中には、保証を引き受ける際、あまり深く考えずに引き受けてしまったと言う方もちらほらと見受けられます。
彼らとしてはある日突然取立屋が来て「○○さんが借金を返済しないため、連帯保証人であるアナタが代わりにこの金額を返済するように」と言われてしまっては、言葉も出ないに違いありません。この場合、仕方がないとばかりに借金の肩代わりを引き受ける人もいれば、どうしても返済できないとして債務整理を行う人もいます。彼らはまだ良い方で中には「こんなものは払う必要がない」と居直りを決め込む人も実は珍しくありません。
話題は変わりますが、お化けについてその存在を信じるでしょうか。幽霊のようなお化けがいるかいないかは古より続くテーマです。皆様も一度くらいはお化けについて話をしたことがあるはずです。この「お化け」について、お寺さんのほかにときたま口にする業界があります。M&A(企業の買収・合併)を行うコンサルタントの世界です。節税目的で休眠会社を買い取ったり、もしくは事業再生のため、企業を買収したりする場合、事前に入念に買取対象の調査をしないとお化けがついてくることがあるのです。そして、ここで言うお化けとは、例えば怪しい不動産登記だとか、暴力団関係とか、借金などが挙げられます。
このような「お化け」が出てこないかどうかのために、企業再生系のファンドはお祓いならぬ、デューデリジェンスと言う調査を必ず行います。なぜならファンドが一度休眠会社を買収してしまった場合、買収金額がまるまる損失になるばかりか、場合によってはそのようなお化けが出てきてファンドにひっつき、てんやわんやになることがあるためです。
超一流の大手の監査法人や企業再生系のファンドですら、このような「お化け」がくっついてきた物件を買い取ってしまうことがあります。一流の大学やら留学やらを経た秀才たちが入念な調査をしてさえそうなのです。ましてや私たちのような凡人が、ある人や物の再生を望んだところで、お化けがついてくる確率はいよいよ増してしまうばかりと言えるのではないでしょうか。
では、連帯保証によって借金と言う「お化け」に憑かれてしまったのならばどうするべきか。もし本物のお化けならば和尚さんや神主さんにお願いしてお祓いをしてもらうべきです。しかし、借金と言うお化けであれば、これはお寺さんではお手上げです。債務整理と言うお祓いをしなければなりません。よしんば債務者が開き直ったところで、取立屋と言う霊は「早く払ってくださいよ」とばかりにうらめしげに、いつまでも取立を続けるでしょう。あまりにも放置をしておくと、今度は差し押さえの危機にも直面しかねません。ましてやヤミ金のような悪霊ならば言わずもがなと言うものです。
もちろん連帯保証を引き受けた結果、お化けを招いてしまった腹立たしさはよくわかります。自分の借金ならまだしも、他人の借金を自分が払わなければならないと言う理不尽さもよくわかります。しかしながら、人の生き方を説いた孔子は「論語」の中でこのように述べています。
子曰わく、憤せずんば啓せず。
「啓発」と言う単語の語源になったこの言葉の意味は「問題に直面して自分から何とかしようと発憤しなければ、解決策を教えることはできない」との趣旨です。なすりつけられた「お化け」に対して居直りを決め込んでしまったのであれば、問題は解決しません。また先述の「憤せずんば」には怒ると言う意味があります。しかし、怒ることが問題解決につながるのでしょうか。もしそうならば、この怒る対象は借金をなすりつけてきた債務者に対してでしょうか。それとも借金取りに対してでしょうか。
少し話題はずれますが、日本の仏教の中で一番位の高い人を「阿闍梨(あじゃり)」と呼びます。京都の有名なお菓子「あじゃり餅」の阿闍梨さんです。常人ならば命を喪ってもおかしくない荒行として名高い「千日回峰行」を遂げた阿闍梨さんが、かつて「お化けはいますか」と問われたときにこのように答えました。
「そのようなものはいます。しかし、人間は自分自身の生涯ですらままならないものです。ましてや、幽霊のようなものに目を向けてどうするのですか」
蓋し名言と言うものでしょう。先の孔子の言葉と併せて考えていただけたらと存じます。