債務整理コラム
借金でツイてないとき1「残酷で理不尽な世界と戦おう」
借金を持っている方の多くは「最近の自分はツイてない」と思っているのではないでしょうか。それはもちろんそうでしょう。借金を負いながら「自分は世界で一番ラッキーだ!」などと有頂天になる人は見たことがありません。
「運気」と言うものが世の中にあるのかないのかはわかりませんが、借金の返済で四苦八苦する段階になると、確かに理不尽な目に遭いやすくなるようです。この要因には色々ありますが、大別すれば「世界」と「自分」の問題の二種類しかありません。
まずは「世界」の問題です。世界はそもそもが残酷で理不尽なものです。サバンナで水を飲んでいるシカが、ほんの少し油断したばかりにライオンに襲われたとします。シカは傷つきながらもライオンから逃げおおせられるかもしれません。しかし痛手を負ったシカを今度はハイエナが付け狙います。空からはハゲタカが狙います。地に伏せればアリの大群が傷口に寄ってきます。ハエが卵を産み付けます。シカとしては到底助かるべくもない、まさにふんだり蹴ったりの状況でしょう。しかしこれは人間の世界でもそう大差はないのです。
どれほど平和と繁栄をテレビが謳ったとしても、世界は残酷で野性的なものです。借金を負えば、似たようなサラ金業者がわんさか現れます。借金を返すべく四苦八苦していると、ふと気づいたときには「借金でお困りとお伺いしました。しかしそんな金額は即座に返して、しかもお釣りが来る話がありますよ」と言うような詐欺話が次々と舞い込んでくるようになります。さらに前の借金が返せずに多重債務に陥ると、今度は取立屋が騒ぎ始めます。あまつさえ取立屋への返済に困窮すれば、ついにはヤミ金が出てきます。ヤミ金への滞納は家庭の破滅です。この先もまだまだ借金地獄は続きます。底なしなのです。
世の中には「救いようのない悪人」が存在します。他人が泣こうが喚こうが何とも思わず、自分の利益にしか一喜一憂できない。しかも、そのような輩は珍しいかと言えばけしてそんなことはありません。よく目を凝らせばいたるところにごろごろしているのです。借金はこのような「救いようのない悪人」を寄りつけやすい性質を帯びています。なぜか。人が借金を負うのと、シカが痛手を負うのは同じことだからです。
ただし芥川龍之介の羅生門よろしく「この世界は残酷で理不尽。だから自分も同じことをする」と言うのは短慮に過ぎます。もしそれを実行すれば想像以上の絶望と後悔を味わうことになるでしょう。具体的には逮捕されて刑務所に入れられ、何もかもを失います。その理由は簡単です。「人間の世界」は残酷で理不尽なものであっても「人間の社会」はそれを糾(ただ)すようにできているためです。
考えてみればこれは当たり前のことです。借金の返済のため、ちんぴらみたいな態度で何の罪もない人の襟首を掴んで締め上げ、お金を巻き上げるようなことをすれば、今度はやくざのように、より力の強い者がその人の首筋を押さえつけてお金を巻き上げます。先に述べた「残酷で理不尽」な世界の連鎖です。しかし、人間の社会はこの連鎖を抑え、間違っているものを糾すための「力」を作り上げています。この力とは法律であり、警察力です。
お分かりでしょうか。「ツキ」がないとは要するに「力」がないと言っているのに等しいのです。借金によって力がなくなった。だから普段ならば近寄ってこないような「弱い」有象無象が寄ってくるのです。
仮にあなたが理不尽な理由で借金を負わせられたとします。そのとき、あなたは「騙された!」と思うはずです。悔しさに我を忘れます。すると、普段は日の当たらない石の裏に潜んでいる虫のような「悪人」があなたの前に現れます。弱った獲物を見つけたからです。このとき「悪人」の話に乗ればあなたは「ツイてない人」となります。逆に「こんなうまい話があるわけがない」と彼らを遠ざければ、少なくともこれ以上に「ツイてない」事象は起こりません。それだけのことなのです。
もちろん理不尽な理由で借金を押しつけられたのは納得が行かないかもしれません。しかし「救いようのない悪人」に騙されないために、自分が「救いようのない悪人」になる必要などないのです。あなたが見据えるべきは「借金のない生活」であり、そこから視点をぶれさせてはならないのです。
とは言え債務者の方の不安な気持ちもわかります。弁護士・司法書士などは普通に生活をしていれば、あまり関わるようなものではないためです。法律を扱う者たちが口を酸っぱくして「法律に頼るべき」と述べても、日常生活の中でひょんなことから「悪人」が持ちかけてきた「ちょっとおいしい話」の方がずっと魅力的に見えるかもしれません。
借金問題を無人島にたとえてみましょう。ロビンソン・クルーソーよろしく無人島からイカダで脱出する際、例えば「波がある場所を避けよう」とか「日当たりが良い場所から出よう」などと「ちょっとおいしい事柄」にとらわれては、いつまでたっても元の生活には戻れません。糊口を凌(しの)ぐために小魚を捕り、捕った小魚のほとんどをサメに奪われる生活を繰り返したいのならば別にそれでも構いません。しかし「当たり前の人間社会」に復帰したいと願うのであれば、社会を社会ならしめている「法律」と言う潮流に思い切って乗るべきです。法律は目には見えず、手で触ることもできません。しかし力強くあなたのイカダを押し流し、やがてはかつてあなたが自由を謳歌していた人間社会に復帰させてくれるのです。
今やあなたの借金問題は解決が目前に来ています。あとほんの少しでこの苦しみは終わるでしょう。なぜならあなたは、あなたの目の前に転がる小賢しい悪だくみを跳ね除けながら、悩みと苦労の果て、ついにここまで到着できたのです。あと一息。ほんの一息で、借金のないかつての平穏な日常があなたを待っています。