債務整理コラム
三年後の自分、五年後の自分
就職活動で会社に面接にゆくと「三年後のあなたは? 五年後の予定は?」と訊かれることがあります。面接マニュアルを精読した人などは、質問の内容を事前に想定しているため、いざ問われた際にもすらすらと返事ができますが、そうでない人のほとんどは言葉に詰まってしまうことでしょう。また、うまく返答できた人だって、三年後や五年後に返事をした通りの人生を歩む可能性などおそろしく低いに決まっています。
そもそも人はあまり遠くの未来のことを考えるようにはできていません。学生数が数万人のマンモス大学の日常風景を眺めてみればそれは一目瞭然のはずです。卒業後に外資系の大企業で一億円のボーナスを貰うことを夢みてこつこつ勉強している学生よりも、一週間後に恋人とデートをしたり、友人と遊びに出かけたりする計画で頭がいっぱいな学生の方が圧倒的に多いのは誰もが知るところです。
人間は目先のことしか考えにくい生き物です。そうして目先の事柄の中でも、とくに自分が叶えたいものばかりを叶える傾向があります。競馬がしたい、パチンコがしたい、どこそこに旅行に行きたい、あのバッグが欲しい、この指輪が欲しい。動かない馬の鼻先にニンジンをぶら下げる喩えがありますが、目の前の欲望しか考えられないのは人間だって似たり寄ったりなのです。ましてその欲望に「でも今はお金がない」と付くとどうなるでしょう? 二ヶ月・三ヶ月後の借金地獄は脳裏を過ぎらず、競馬場の大歓声や楽しいバカンスばかりが瞼の裏にちらつくのではないでしょうか。
何を先に行おう。やりたいことは最優先に、やりたくないことは最後尾に。誰もが無意識に行なっているこれらの行為は人の本質的な面を象徴しています。つまり、人とは各々の価値観にしたがって順位付けをするものなのです。「三年後の自分、五年後の自分を説明してください」と言う面接官の質問の意図とは「あなたにとっての価値観と、その順位付けされた価値を現実化するための手法を述べてください」と言うもの。もっと優しく言い換えれば小学生の頃、両親や学校の先生から「優先順位を考えなさい」と言われたことがあるはず。就職面接の質問とは、小学生の頃に言われた事を難しくされたに過ぎません。
さて、優先順位を考える中で忘れてはならないものは「我慢」です。我慢ができず、目と鼻の先にぶら下がった享楽ばかり叶えている人のほとんどは、そう遠からず人生に失敗します。なぜか。こう言い換えてみればわかるはず。やるべきことを後回しにして、今やりたいことを前に持ってきているため。つまりそれは「借金」を重ねているためです。
借金の話題に移りましょう。そもそも借金は「優先順位」を妨害するようにできています。よく思い返してみてください。借金があると日常が苦しくはないでしょうか。それもそのはず。借金の返済は、様々に折り重なる日常の雑務や欲望を出しぬいて常に生活の最優先に立つように作られているためです。もし返済よりも生活を優先させたり、よしんばレジャーやショッピングなどを優先させたりすれば取立屋から矢のような催促を受けることになるでしょう。優先順位の序列の一位が常に「借金の返済」である。これでは「三年後の自分、五年後の自分」のような順位付けをすることができません。せいぜいが「今週も借金の返済ができた。今月も返済をがんばろう」と青息吐息で自分に言い聞かせるのが関の山なのです。
これは何も特別な話ではありません。日々新聞やニュースを賑わしている経済動向で考えればわかりやすい話です。誰もが名を知るような東証一部上場の大手企業ですら、借金が嵩んで返済に苦しめば倒産を免れることはできません。資金繰りが悪化して倒産寸前に陥った企業が画期的な新商品を開発したり、新サービスで世間をあっと言わせたりすることはできないのです。もちろん世の中にはM&Aのように企業のコアとなる事業を抽出し、まったく別のサービスに転換する手法もあります。しかしそれはあくまでも買収する側が「この企業の強みはこう使えるな」と考えるのであり、借金を負った側が行うものではありません。大抵は大手の企業に株式を買ってもらったり、銀行から借り入れをしたりするにとどまります。ましてや中小企業であれば、私たち個人とそう差はなく、商工ローンやひどい場合には企業相手のヤミ金から借り入れをすることになるでしょう。当然、事業の最優先は「借金の返済」となります。このような事態に陥った会社はそのほぼすべてが借金返済を除いた新しいアクションを起こせず、結局は倒産の憂き目に遭ってしまうのです。
借金は目先の二年・三年と言った返済期間にのみ人生の邪魔をするのではありません。本来であれば、漠然とであっても最優先事項として胸の奥底で思い描いていた、十年後・二十年後の輝かしい未来を暗く退屈でつまらないものへと変貌させてしまうのです。だからこそ返済できないのであれば素早い債務整理を。借金の返済のため、別のサラ金から借りるようなパターンに陥ってはせっかくの素晴らしい人生を台無しにしてしまいます。
漠然とでも良いのです。三年後の自分、五年後の自分が見えてくるような位置づけに自分を置くこと。それは同時に借金のないクリーンな生活に向かうことをも意味するのです。