債務整理コラム

それは本当にリンゴなの? 〜借金問題をこじらせやすい、ひとつの危険な考え 2〜

一生懸命情報を集めたのに借金問題の解決に失敗してしまった。このような問題が生じる原因はどこにあるのでしょう。その答えは先のバラエティ番組で考えればわかります。法律相談の番組では、たとえば隣家から苦情を受けた。すると弁護士が「こういうケースでは民事で訴えて、口座を仮差し押さえすれば……」と述べたとしましょう。それを聞いた私たちは「ああ、そうなんだ。こうすればいいんだな。もう安心」と胸をなでおろしてしまうのです。しかしいざそのような問題が生じた場合、手順も結果も全然違う。相談した弁護士に「テレビではこういってたのに」と食ってかかれば、弁護士は「それは全然違う話です」と一言で却下される可能性だって大いにあるのです。

わかった気になる。これは非常に危険なことです。お茶の間のテレビ番組はどんな視聴者であっても「わかった気」にさせます。その気にさせることで楽しんでもらうことが目的だからです。バラエティ番組はあくまでも楽しむことがメインであり、実際に問題が起きた際、必ずしもそれが有効な法律となるかどうかには焦点が合っていません。問題となるのはこの焦点の合わせ方。借金問題に関しても、債務者が「何とか抜け道を」と考えたのであれば、やはり『借金解決の抜け道』にのみ、債務者の意識は合わせられます。そうしてインターネットで検索をすれば、そこにはもう「リボ払い」だの「借金の一本化」だの、「カードの現金化」だのといった危険な言葉が、ディスプレイの前にいる債務者の目にズラリと居並んで映ることでしょう。

借金の抜け道を模索しているある多重債務者が、パソコンで借金の抜け道について検索をした結果「カードの現金化」に興味を持ったとしましょう。カードの現金化とはクレジットカードのショッピング枠を用いて、買い取り業者が指定するカメラやらノートパソコンやらをクレジットカードで買い、形の上で業者にそれを売ることで現金を手にするという仕組みです。

この債務者は「このカードの現金化とやらをすれば、今月の借金を返済してもお釣りが来る!」と喜び勇んで現金化業者に連絡をします。すると業者は懇切丁寧に「これを買ってください。買ったらここに電話をしてください。それを確認したらお幾らお支払いいたします」と説明をしてくれます。債務者はウキウキといわれるがまま、カメラを購入し、その郵送先を業者に指定し、再び業者に連絡を入れます。すると業者は「ではお金を振り込みますね。その前に手数料のほかに説明料金が◯◯%。査定料が◯◯%。振込手数料として◯◯%いただきます。全部差し引きまして2千円が振り込みとなります」と一方的にいって電話を切ってしまうのです。本来ならば十万円・二十万円と期待をしていた現金化の金額がたったの2千円になってしまう。キャンセルをしたくても後の祭り。ましてカード会社に連絡をすれば規約違反としてカードそのものを抹消されてしまうのです。そうして後に残るのはカード会社への借金と金利、サラ金への支払いばかりといった体たらく。

『借金解決の抜け道』への情報を収集した債務者の末路とは大抵がこのようなもの。他人事として見れば思わず失笑してしまうかもしれません。でも、借金の返済に苦しんでいる債務者本人にとっては大まじめもまじめな話でしょう。そしてこんな話は枚挙にいとまがないのです。

上記のパターンで債務者が失敗した理由はそもそも「借金問題に関する抜け道」などを探したためです。実際「カードの現金化」を検索するのであれば、そこにほんの2文字「犯罪」や「詐欺」なども合わせて検索すれば、こんな手口には引っかかるはずもなかったはずです。でもできなかった。調べれば調べるほどに納得してしまい、傍らにぽっかりと口を開けているワナに引っかかってしまった。これが「わかった気になる」ことの危険性なのです。もちろん、これが「借金の踏み倒し」であっても「ヤミ金」であっても同じ結末か、もしくはもっとひどい結果に終わることは間違いありません。

目の前に果物があるとします。サングラスをかけた人にその果物が何かと尋ねれば多くは「リンゴ」と答えます。確かにその形はそうかもしれません。でも、もしかしたらそれは梨かもしれません。リンゴの形をした陶器かもしれません。場合によっては「毒リンゴ」の可能性だってあるのです。専門家でなければそれは判断できないかもしれません。

私たちはみんな生まれつきサングラスをかけています。それにも関わらず、一方的な思い込みや決め付けで「わかった気」になることがほとんどです。借金問題を扱う法律に関してもそれは同じ。

当所を含め、債務整理を行っている弁護士・司法書士事務所はなるべくやさしく、わかりやすいように借金問題の解決方法について文章を記しています。しかしその説明の元となる法律の文章は実際にはとても難しく書かれています。難しいということは頭が良い人だけが読めるという意味ではありません。たった一つの単語や言い回しの中に、凄まじい量の情報が集約されているということなのです。だから法律は人によって解釈が無数に異なります。またケースによっても異なります。法律とはそもそも、このように高度なものですが、加えてその数は膨大です。あまつさえこれらすべての法律は複雑かつ精緻に相互作用しあって完璧な仕組みを構築しています。その仕組みは何のためか。私たち日本国民が健全で幸福な生活ができるようにするためです。

水も漏らさぬように組み上げられたこの法律に則って、これまで数十億・数百億人もの日本人が生活してきました。法律のバラエティ番組を見てわかった気になったり、一方的な観点から法律の抜け道を探しまわったりするのは個人の自由です。しかしそれはまず間違いなく手痛いしっぺ返しを食らうことでしょう。先のカードの現金化のように。

餅は餅屋といいます。借金の悩みはもちろん、種々の問題が生じて困ったのであれば「自分は何も知らないのだ」という前提の上で、専門家に相談をすることが一番の解決策であることは間違いありません。


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