債務整理コラム

最も危険なサラ金とは

金融業者には色々な種類があります。銀行・証券会社・株式などの投資顧問・私募債ファンド・消費者金融 etc……。

債務者の方にとって最もなじみ深いものは消費者金融、いわゆるサラ金業者でしょう。中にはマチ金やヤミ金という人もいるかもしれません。しかし、彼らはちょっと毛色が異なります。とくにヤミ金は金融業ではなく、金融に見せかけただけの犯罪者です。

今回お話をするのは一般的なサラ金業者。一口にサラ金業者といっても、その中身もまたさまざま。それこそ大手銀行の傘下として知名度も高い消費者金融から、債務者の業界の中では名前が知られている中規模のサラ金、中には零細の業者もごまんと存在しています。

彼らの社風も様々です。融資は行うけれど取立も厳しい業者。審査が厳格でなかなか貸付してくれない業者。あこぎな取立を繰り返すために数年単位で社名を変更するような業者も存在しています。

大手サラ金の場合、さすがに一昔前にいたようなチンピラ風の格好の社員はなりをひそめたようです。それでも彼らのような大手の場合、取立は債権回収会社が動くことも少なくありません。ですので、結果的には昔と実情はあまり変わりません。逆にビジネススーツをキッチリと着こなしていても、どことなく怖い雰囲気の社員も多数いるのが実情です。

色々な消費者金融、さまざまな社風、そして百人百様の社員。これらのサラ金会社の中で危険なサラ金会社というものも存在します。

危険なサラ金会社。それは意外かもしれませんが「親切なサラ金会社」です。人は誰でも親切にされれば気分がよくなります。しかし、親切であることがサラ金として良いわけではないのです。

竹田さん(仮)は多重債務者。三社のサラ金から150万円の借金をしていました。一番借入の多いA社からは約90万円の借金です。

ところでこのA社の債権回収の担当者は40代の竹田さんとほぼ同い年でした。可もなく不可もなしといったような吊るしのスーツに身を包み、少し曇った色合いのシチズンの時計をはめています。ちょっと薄くなった頭を七三に分けて、見た目は地方の信用金庫の社員といった印象です。

はじめのうち、竹田さんはこの担当者にさほど良い印象を抱いていませんでした。どんな人であっても、サラ金会社の取立に良い印象を抱くことはなかなかできません。しかし、この担当者はあまりうだつの上がらない雰囲気で、丁寧な挨拶の後、いつも苦笑まじりに自分の失敗談を話すような人でした。

他のサラ金会社は電話をかけてきては「借金を返して下さい」しか連呼しないのですが、こちらはとにかく丁寧。最初に雑談をした後、小一時間近く、竹田さんの世間話や日頃の愚痴にじっくりと耳を傾けます。そうして程良い頃合いになって時計を見ては「そろそろ帰りますが、返済の方、いかがですか」とだけ尋ねるのです。

竹田さんとしても最初のうちは「いやあ、まだちょっと」とか「今月、これだけしかなくて」などと言葉を濁していたものの、数日置きに訪ねてきては世間話だけして帰ってゆく担当者に次第に親愛の情を覚えてきたのです。

そうしてある日のこと。いつものように担当者が帰り際になったとき、竹田さんは「実はうちの嫁の弟が多少貯金を持っているようなのでね。頼みに行こうかと思うんです」とつい言ってしまいました。担当者はいつも通り笑顔で「ほう、そうですか」とだけ頷いて帰ってゆきました。

それからさらに二三回、担当者が竹田さんの家を訪ねてきた後、竹田さんはふと思い立ったように奥さんの弟さんの家を訪ねました。そうして借金返済のための無心をしたのです。義理の弟さんの方は苦い顔をしていましたが、それでも姉の旦那さんが土下座も同然に頼み込むため、最後の最後には借用書を書くということで、なんとかお金を借りました。

こうしてA社には無事に返済をした竹田さんですが、しかしその後がよくありません。数日後、電話が鳴り響きました。電話に出た竹田さんを待っていたのは義理の父親からの怒声。「借金で生活ができないとは何事だ。挙句に他人の家庭に土足で踏み込むような真似をして」と凄まじい声で怒鳴り散らされた竹田さん。ことはそれで収まらず、さらに数時間後、血相を変えた奥さんが金切り声で竹田さんを責めました。「あんた、うちの弟に何やってんのよ。お父さんから離縁しなければ、私まで絶縁と言われたじゃないの」とものすごい剣幕です。

竹田さんとしては立つ瀬がありません。結局、奥さんとはそれが元で離縁。働く気力も失った竹田さんですが、残る借金はさらに膨らむ一方。そうして気持ちがふさぎこみ、ノイローゼになった挙句、何を思ったのか、竹田さんはある日、かつてのA社の担当者に電話をかけたのです。

「はい、◯元です」と担当者。 「あんたのせいで、あんたのせいで俺は」

最初のうち、事情が飲み込めずに返答しなかった担当者ですが、途切れ途切れにでも事の顛末を竹田さんが話すうちにようやく状況が理解できたようです。彼は涙ながらに叫ぶ竹田さんの言葉を黙って聞き終えると、いつものようにのんびりした声で「いやあ」とだけ言って電話を切ってしまいました。

サービスが良いということと、借金の返済をするということはまったくの別物。ましてや上手な債権回収業者は、相手の情に気づかずに踏み込める手段を各人が培っているのです。彼らの本当の目的というものを知らずにうっかりと関わってしまうのは考えものです。

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