債務整理コラム

契約的でないご利用の末路 1

良かれ悪しかれお金には人の欲が絡みます。金融という、お金そのものが直接動く舞台ではそれが露骨に現れることが少なくありません。

大沢さん(仮名)は47歳の契約社員。初めてサラ金から借りたときのきっかけは転職活動をするための生活費に困ったことが原因です。

借金を初めてするとき、それはとても異質なものに感じます。このため、大沢さんは多少の無理をして日雇いのアルバイトを入れてもきちんと完済をしました。

大手のサラ金業者から借入をして完済する、を幾度か繰り返した大沢さん。やがて彼は、自宅の近くに、大手よりも少し金利の安い小口のサラ金業者B社があることに気づきます。

生来の気質がとてもまじめな大沢さんですから、彼はB社への返済もちゃんとこなしていました。元々彼の借入額は5万円から10万円程度とけっして多くはありません。しかし額は少なくとも約束は守る彼ですから、B社としても大沢さんのことをなかなかの得意先として認めたようです。やがて、大沢さんはときにB社の担当者と雑談をする程度の仲にもなってきました。

そんなある日のことです。息せき切って大沢さんがB社に飛び込んできたのは。
「50万円貸してください」
「50万!?」突然の大沢さんの言葉に、いつもは笑顔で出迎える担当者もさすがに引きつりました。「大沢さん、どうしちゃったの?」

担当者が尋ねると、大沢さんは青い顔で話を始めました。なんでも彼のお兄さんが心筋梗塞で倒れ、お葬式を出さなければならないそうです。

既にご両親が他界され、大沢さん以外に身寄りもないお兄さんです。大沢さんがお葬式を出してあげなければどうにもならないとのことでした。

「気持ちはわかるけどねえ」さすがの担当者もなんともいえない声で応じました。「お兄さんだしね。でもね、お葬式でも心をこめて大事に弔えばいいじゃないですか。50万円もかけなくてももう少し安いお葬式できますよ」

慰めともつかない担当者の言葉が響くと、大沢さんはこらえきれずに涙をボロボロと流しました。

「それにね。大沢さん、今の会社の給料は16万いかないくらいですよね。税金を抜いて、家賃を払って、月々の生活費を払ったら、ほとんど残らないでしょう。そんなに借りても返せないでしょう」

でも、どうしても普通のお葬式を出してあげたいと鼻声で大沢さんがつぶやきました。
水を打ったようにシンと静まり返った社内で、担当者が大きくため息をつきました。
「20万。いつもの倍額。お香典も多少は入るでしょう。本当に信用するから、大沢さんにこれだけ融資するんだからね」
言い聞かせるような担当者の言葉に、大沢さんは諦めともつかない青い顔で静かに頷きました。

ところがそれから十五分後。肩を落として家路に帰ろうと歩いている大沢さんに一本の電話がかかってきました。

「もしもし、大沢さん?」
先ほどの担当者の声です。何ごとかといぶかしんだ大沢さんに向かって、受話口から思いもかけない担当者の言葉が続きました。
「あと10万。特別に貸してあげるよ」
大沢さんは目をみはりました。ただし、と担当者は続けます。
「これは俺が個人で貸してあげる。金利は一ヶ月後に倍。バイト入れるでしょ? そうしたら毎週一回は必ず返済をする。絶対に返すこと。返せる?」
大沢さんの目から再び涙が流れだしました。でも、それは先ほどとはまったく違う類のものです。
ありがとう、ありがとうと繰り返す大沢さんでしたが、しかし、担当者の声はなぜか憂鬱そうでした。

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