依頼者からの借金体験記

任意整理が救った多重債務地獄

第1章

目に飛び込んできたサラ金業者の広告!

今でも忘れられません。
コンクリートの壁に、ポツリとある小さくて無機質な鉄の扉。腰をかがめなければ入れないような低さの小さな扉。それは、多重債務に苦しんでいた私が、サラ金業者からお金を借りようとした日の出来事でした。そして、この日、はじめて私は「債務整理」という言葉を聞くこととなりましたが、まさか自分が債務整理をするなどとは思ってもいませんでした。

「当社なら貸します!」とチラシに書かれた謳い文句。
その当時の私は、大手の消費者金融5社から借り入れをし、ついには限度額を越えてしまい、免許書さえあれば借りられるという無人契約機で申し込みをしたものの、それさえも断られ、これ以上は借り入れができないという状況になっていました。
しかし、住宅ローンやお風呂場のリフォームのローンなどの支払いも待ってはくれませんし、遅れれば主人宛に督促の連絡が行くでしょうし、そうなれば私が借金をしていることもバレてしまいます。ですから、何とか自分でお金の工面をしなくては・・・と焦っていました。

「どうしよう・・・」
いつもは楽天的な私も、さすがに落ち込む日が多くなっていました。そんなある日、憂うつな気持ちで街を歩いていると、ふと手にしたフリーペーパーに載っていたサラ金業者の「当社なら貸します!」という広告が目に飛び込んできました。
「サラ金だけには絶対に手を出さないほうがいい!」
心の中でそう呟きながらも、目は広告に書いてある文字を追っていました。文面はよく覚えていませんが、「当社なら貸します!」というキャッチコピーが、「サラ金からは絶対に借りちゃダメ!」という私の心を揺さぶったのです。

フリーペーパーを家に持ち帰り、夕食の片づけを終えると、寝室で何度もそのフリーペーパーを見ては閉じ、見ては閉じを繰り返しました。ちょうど、その頃、サラ金業者の取り立てを苦に自殺した人のニュースを見ていたので、「サラ金にだけは借りないようにしよう」と、どこかで自分に言い聞かせていたのです。
でも、借金の返済は待ってはくれません。主人のお給料日は25日ですが、月末の住宅ローンやお風呂場のリフォームローン、生活費などでほとんどが消えて行ってしまいます。借金の返済は、27日が1社、月末が3社、10日が1社となっています。その日も、3日後にはA社の返済日が迫っていました。

真夜中、サラ金へ電話・・・

家族が寝静まり、私は夜中に起きだして、再びフリーペーパーに載っているサラ金業者の広告を見直しました。借りようかどうしようか、さんざん悩んだ挙句、私は「すぐに返せば大丈夫!」と自分に言い聞かせ、思い切っていくつか掲載されている業者の中から1社に電話をしました。
「プルルルル・・・」
夜中の1時頃だったでしょうか。何度か呼び出し音が鳴った後、私は怖くなり、慌てて受話器を置きました。
「どうしよう・・・」
サラ金から借りる怖さに身体が震えていました。もしも返せなかったら・・・そう思い、やっぱり止めようと思うものの、借りなければローンが支払えない・・・。
「すぐに返せば大丈夫!」
10分ほど経ったでしょうか。私はまたそう思い直し、再びダイヤルしました。
「プルルルル・・・」
今度は2度の呼び出しで業者につながってしまい、迷う間もありませんでした。
「はい、○○社です」
受話器からは、男性の声が聞こえました。
「あのぉ・・・チラシで見たんですけど・・・」
私が家族に聞こえないよう小さな声でたどたどしくそう言うと、男性が「借り入れですか?」と答えました。それから名前や住所などもろもろと質問を受け、5分ほど話したでしょうか。「ご希望の融資金額はおいくらですか?」と聞かれ、「できたら20万円で」と答えました。
「では、審査をしますので10分ほどしたら、これから言う番号に電話をして審査結果を聞いてください」と言われ、10分ほど経ってから指定された電話番号にダイヤルしました。
「申し訳ありませんが、審査の結果、ご希望の金額はお貸しできませんが、10万円ではいかがですか?」
本当なら10万円でも、手が出るほど借りたかったのが本音です。でも、主人から車の頭金として20万円必要だと言われていましたし、10万円を借りても、他で差額の10万円を借りる当てなどあるはずもありません。

私は、とりあえずその業者からの融資を断りました。「違う業者なら20万円、借りられるかもしれない」と甘い考えを抱いていたからです。電話を切ると、すぐに違うサラ金業者に電話をしましたが、答えは同じでした。もう1件かけてみました、やはり断られてしまいました。こうなると、「借りられないかもしれない」という不安が私を襲いました。しばらく茫然としていましたが、「もう1件だけかけてみよう」と思い直してダイヤルをしました。ところが、その業者では、意外にもあっけなく審査が通ってしまいました。
「では、明日の11時に新宿の事務所へおいでください」
何ともあっけないやり取りにア然としたものの、とりあえず借りられるんだという安堵感が全身を包んでいました。その夜は久しぶりにぐっすり眠ることができました。

翌日、指定の時間に電話で教えてもらった住所を訪ねました。
4階に事務所があると言われましたが、とても狭いビルでエレベーターもありません。仕方なく、私は階段を使って4階まで昇りました。「借りられるんだ」という実感はまだなく、頭の中は真っ白なまま、一歩一歩階段を踏みしめて昇ると、そこには一面の壁がありました。2階、3階にはちゃんとした間隔を空けてドアが2つあり、「株式会社○○○○」と会社名が書かれたプレートがかけてありました。
私は階数を聞き間違えたのだと思い、5階に上がってみました。ところが、5階は2階、3階と同じく普通の会社です。ネームプレートを見てみましたが、私が訪ねようとしているサラ金業者の名前ではありません。私はもう一度、4階に降りて行きました。そこにあったのが、先ほどは気づかなかった、冒頭の“小さくて無機質な鉄の扉”だったのです。

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